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名古屋地方裁判所 昭和63年(ワ)2063号 判決 1989年5月19日

原告

落合義之

ほか二名

被告

原アキコ

主文

一  被告らは、各自、各原告に対し、各金一八三万五六三六円及びこれに対する昭和六二年八月三〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、各原告に対し、各金三五〇万三一〇三円及びこれに対する昭和六二年八月三〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

(一) 日時 昭和六二年八月二九日午前一〇時三〇分ころ

(二) 場所 愛知県小牧市大字小牧一六五九番地の七先路上

(三) 加害車 軽四輪貨物自動車(尾張小牧四〇え四六九六、以下「本件車両」という。)

(四) 右運転者 被告原アキコ(以下「被告原」という。)

(五) 被害者 訴外落合スエ子(以下「亡スエ子」という。)

(六) 態様 被告原が本件車両を運転し前記場所の南側に面した駐車場から道路に右折進行したところ、折りからその道路を北から南へ横断歩行していた亡スエ子に本件車両を衝突転倒させ、轢過し、同女に多発性肋骨骨折等の傷害を負わせ、同日午後四時五分ころ死亡に至らしめた。

2  責任原因

(一) 被告原

被告原は、前方注視義務等を怠つた過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により損害賠償責任を負う。

また、被告原は、本件車両の所有者であり、本件事故当時、本件車両を自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により損害賠償責任を負う。

(二) 被告栄ホープ株式会社(以下「被告会社」という。)は、被告原の使用者であり、本件事故は被告原が被告会社の事業の執行につき発生させたものであるから、民法七一五条一項により損害賠償責任を負う。

3  損害

(一) 治療費 金三〇万一三〇〇円

(二) 葬儀費用 金一五〇万円

(三) 逸失利益 金七〇四万二四一〇円

亡スエ子は、本件事故当時六七歳であつたので、六七歳女子労働者平均給与月額金一六万三三〇〇円を基礎とし、生活費控除を三〇パーセントとし、就労可能な六年間の過失利益を新ホフマン係数五・一三四により算定すると、次の計算式のとおり金七〇四万二四一〇円となる。

163,300×12×(1-0.3)×5.184=7,042,410

(四) 慰謝料 金一六〇〇万円

(五) 損害のてん補 金一五一三万四四〇〇円

原告らは、本件事故の損害賠償金として、自賠責保険から金一三三三万三一〇〇円、被告原から金一八〇万一三〇〇円(内訳は治療費金三〇万一三〇〇円、葬儀費用金一五〇万円)、合計金一五一三万四四〇〇円を受領した。

(六) 弁護士費用 金八〇万円

原告らは、本件事故に基づく損害賠償請求のために原告ら代理人に訴訟の提起、追行を委任し、その報酬として金八〇万円の支払いを約した。

(七) 前記(一)ないし(四)及び(六)の合計額から(五)の金額を控除すると、残額は金一〇五〇万九三一〇円となる。

4  原告らの相続

原告らは、いずれも亡スエ子の子であり、亡スエ子の死亡により、各三分の一の割合で亡スエ子の右損害賠償請求権を相続した。

したがつて、各原告の損害は、金三五〇万三一〇〇円(一〇円未満切捨て)となる。

5  よつて、各原告は、被告ら各自に対し、損害賠償請求権に基づき、各金三五〇万三一〇〇円及びこれに対する本件事故日の翌日である昭和六二年八月三〇日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  同3の事実のうち、(一)、(二)及び(五)は認め、その余は否認する。

3  同4の事実のうち、原告らが亡スエ子の相続人であることは認め、その余は否認する。

三  抗弁

(過失相殺)

本件事故現場は、交通量の多い県道高蔵寺小牧線の車道上であり、かかる車道を横断する場合には、歩行者は、前後左右の自動車の動きを十分注意し、安全を確認してから横断すべきであるのに、亡スエ子は、前方の本件車両の動きを確認しないまま漫然道路を横断したため、本件事故に遭遇したものである。本件事故は、亡スエ子がわずかな注意をすれば十分回避できたものであり、亡スエ子の過失割合は三五パーセントを下ることはない。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)及び2(責任原因)の各事実は当事者間に争いがない。

二  次に、抗弁(過失相殺)について判断する。

1  成立に争いのない甲第一〇号証、第一一号証及び第一四号証ないし第一九号証、原告落合義之、被告原の各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

本件事故発生現場道路(県道高蔵寺小牧線)は、片側一車線で、交通ひんぱんな道路であるところ、右県道の両側には民家や商店が存在し、本件事故発生現場北方には右県道と交差する細い道路があるが、本件事故発生現場付近には横断歩道はなく、信号機も設置されていない。亡スエ子は前記県道を北から南へ横断しようとしたものであり、一方被告原は、本件車両を運転して、右県道南側に面した駐車場から右県道へ右折進行しようとしたものである。そして、被告原が前記のごとく右折進行しようと右駐車場出口で停車していた際、右県道の西から東へ向かう車両が右駐車場に進入しようと車道上で停車したため、被告原は時速約一〇キロメートルで右折進行し、前記のごとく横断中の亡スエ子と衝突したものである。また、被告原は、左方から東進してきて右駐車場に入ろうとしている車両に気をとられ、前方左右の進路の注視を欠き、衝突するまで亡スエ子の存在に全く気づいておらず、しかも、衝突地点は、被告原の進行予定方向(東方向)からすると反対車線上であり、被告原は小回りをしたため右側通行したことになる。また、亡スエ子は、本件事故当時六七歳と高齢であつた。

2  以上の事実によれば、亡スエ子には、本件事故発生現場の車道を横断するに際し、前方左右の安全を十分確認せずに横断した過失が認められるが、逆に、被告原は、衝突時まで亡スエ子に全く気づいておらず、また、小回りをして右側通行する等、その過失は重大であり、前記認定の諸事情を総合すると、亡スエ子の損害について一〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。

三  請求原因3(損害)について

1  請求原因3(一)(治療費金三〇万一三〇〇円)及び同(二)(葬儀費用金一五〇万円)の各事実は当事者間に争いがない。

2  逸失利益

(一)  成立に争いのない甲第二号証、原告落合義之の本人尋問の結果によれば、亡スエ子は、大正九年一月一〇日生まれで、本件事故当時六七歳であり、慢性の胃腸病にかかつてはいたが、生活に支障はなく、無職ではあつたが、同居の原告落合義之夫婦が共働きだつたので、家事をしており、労働の意思と能力を有していたことが認められる。

(二)  右事実によれば、本件事故直前の亡スエ子の得べかりし年収は原告ら主張の六七歳女子労働者の平均賃金の八〇パーセント、生活費控除率は三〇パーセント、就労可能年数は六年間(新ホフマン係数は五・一三三六)と認めるのが相当である。

よつて、亡スエ子の逸失利益は、次の計算式のとおり金五六三万三四八九円となる。

163,300×12×0.8×(1-0.3)×5.1336=5,633,489

3  慰謝料

本件事故態様、亡スエ子の年齢等諸般の事情を考慮すると、亡スエ子の本件事故による死亡慰謝料は金一五〇〇万円と認めるのが相当である。

4  過失相殺

以上1ないし3の各損害を合計すると、金二二四三万四七八九円となるところ、前記二判示の一〇パーセントの過失相殺をすると、残額は金二〇一九万一三一〇円となる。

5  損害のてん補

原告らが本件事故による損害賠償金として、自賠責保険から金一三三三万三一〇〇円、被告原から金一八〇万一三〇〇円、合計金一五一三万四四〇〇円を受領したことは当事者間に争いがないので、前項の金額から右既受領金を差し引くと、残額は金五〇五万六九一〇円となる。

6  原告らの相続

原告らが亡スエ子の相続人であることは当事者間に争いがなく、前掲甲第二号証によれば、原告らは亡スエ子の右損害賠償請求権を各三分の一宛相続したことが認められるから、原告らの各相続した金員は、それぞれ金一六八万五六三六円となる。

7  弁護士費用

原告らが本件事故に基づく損害賠償請求のための原告ら代理人に訴訟の提起、追行を委任し、相当額の報酬を支払う旨約したことは、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

本件事案の難易、請求認容額、その他諸般の事情を斟酌すると、各原告につき各金一五万円が本件事故と相当因果関係ある弁護士費用と認められる。

8  前記6及び7の各損害額を合計すると、原告らは、それぞれ被告ら各自に対し、各金一八三万五六三六円の損害賠償請求権を有することになる。

四  以上によれば、本訴請求は、被告ら各自に対し、各原告が本件事故に基づく損害賠償金一八三万五六三六円及びこれに対する本件事故日の翌日である昭和六二年八月三〇日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告らのその余の請求は理由がないからこれをいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 芝田俊文)

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